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東京高等裁判所 昭和36年(う)841号 判決 1961年12月13日

被告人 大倉芳雄 外一名

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(弁護人の)控訴趣意第一点、第三点について。

原判決挙示の証拠を総合すれば原判示事実はすべてこれを肯認するに十分であつて記録を調査し当審における事実取調の結果に徴するも原判決には事実誤認の違法があるとは認められない。又原判決が右認定事実に対し判示法条を適用処断したことは相当であつて、所論のように罪とならない事実を有罪とした違法があるとも認められない。

即ち原判決挙示の証拠によれば、被告人両名は、医師の免許を受けていないのに、意思相通じて、業として判示のように昭和三四年三月一日ごろから同年八月九日ごろまでの間に六回にわたり甲府市緑ヶ丘町一〇九番地志村留四郎方において島田祐造外三名の患者に対し、その疾病の治療を目的として容体を聴き病状を判断して、バスハツピ(一名コロイド硫黄)と称する水薬を患部に塗布しまたは持ち帰つて塗布させるために交付したことを認めることができ、被告人大倉の司法警察員及び検察官に対する各供述調書、甲府警察署長より山梨県警察本部長宛の鑑定嘱託書、山梨県警察技師横沢史彦の鑑定書、証人横沢史彦の原審公判廷における供述、当審における鑑定人肥田野信の鑑定書、証人肥田野信の当審公判廷における供述によれば、右バスハツピなるものは、被告人大倉が患者の疾病治療に使用する目的で自ら生石灰を釜に入れ加熱しこれにその約三倍量の硫黄の粉末を入れて煮詰めて製造したものであり、その製造されたものの中には硫化石灰、多硫化石灰、チオ硫酸石灰を含有していること、右硫化石灰、多硫化石灰、チオ硫酸石灰はこれを気浴、温浴、湿布等に使用した場合、極めて稀ではあるが特定の体質の人に高度の皮膚炎、悪心、下痢、発熱等の重い副作用が起こることがあり、人体に無害であるとはいいきれないものであつて、正しい医学的注意の下に施用すれば重い副作用を避けうるものであることが認められるから、右バスハツピなるものは薬事法第二条第一項第二号所定の医薬品であるということができ、それは正しい医学的注意の下に患者に対し施用されなければならないものであるということができる。右バスハツピがいわゆる毒薬、劇薬でなく、又一般的に医師が疾病治療の目的で使用するものでないとしても、その故をもつて直ちにこれを医薬品でないと主張する所論にはにわかに賛成できない。そして、医師法第一七条にいわゆる医薬とは反覆継続の意思で人の疾病の治療を目的に診察治療をなすことをいい、薬品を患者の患部に塗布し若しくは患者をして薬品を持ち帰つて塗布させるために交付して投与する等の行為は右治療の方法と認むべきものであることは明らかであるから、業として疾病治療の目的で患者に対し医薬品を塗布し若しくは塗布させるために交付して投与したときは医師法第一七条にいわゆる医業をなした場合に該当するものというべきである。もつとも、被告人が所論のようにあんま師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法附則第一九条の規定により昭和二八年八月一日山梨県知事に温熱療法、指技療法の医業類似行為を業としていた者として省令所定の届出をなしたものであることは、証拠により認められるから、本件犯行当時右届出の範囲を逸脱しない限り届出にかかる医業類似行為をなすことは固より許されるけれども、原判示のようなバスハツピを塗布し若しくは交付して投薬する行為は医業を組成する医行為に属するものであることは前示のとおりであつて、医業類似行為の範囲内には属しないものと認められるのみならず、右法条(前示附則第一九条)により準用される同法第一四条の規定によれば医業類似行為業者は外科手術を行い又は薬品を投与し若しくはその指示をする等の行為をなすことは許されないこととなつている点から考えても、これらの行為は医学上の知識を要するものであるから医師の免許を受けた者でなければ業としてこれをなすことを許さないものとした法意であつて、たとい医業類似行為を業としうる者であつても、右規定に反しこれらの行為を業として行つたときは医師法第一七条にいわゆる医業をなした者として処罰を免れないと解すべきである。してみると、被告人等の所為が医師法第一七条の規定に違反したものであることは明らかであるといわなければならない。かりに被告人大倉が所論のように長期間にわたり判示のような治療行為をなして来たにかかわらず患者の身体に実害を生ずる結果があらわれたことがなく、又都道府県知事から所定の指示や注意を受けたことがなかつたとしても、いやしくも行為者において医師の免許を受けていない限り、医師法第一七条の違反となるものと解すべきである。

なお、所論は違憲を主張しているが、その論拠は被告人等の本件行為を医業類似行為を業とするものであるとなし、これを前提としているものと見受けられるのであるが、右は本件訴因と別異の事実を主張しこれを前提とする立論であるから右違憲の主張は採用の限りでない。かりに所論の主張が医師法第一七条が憲法第二二条に違反するものであるというにあるとすれば所論はやはり採用し難いものといわざるを得ない。なぜならば、医業は公衆衛生に直接関係し国民の健康な生活を確保するものであるから、法は医師の免許につき絶対的、相対的欠格事由を定めた上国家試験に合格し厚生大臣の免許を要する等厳重な規定を設けているのであつて医師でなければ医業をしてはならないのである。従つて、法が医師でない者が医業をなすことを禁止するのは公共の福祉のため必要とするのであつて、職業選択の自由を不当に制限したものとは認められないから、これを憲法第二二条違反ということはできない。それ故論旨はいずれも理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 長谷川成二 白河六郎 関重夫)

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